【読書025】「跡形なく沈む」

跡形なく沈む」(D.M.ディヴァイン/創元推理文庫)

ミステリではなく、ヒューマンドラマとして評価できる一作。

タイトルは、最期まで読めばなるほどと思わなくもないが、伏線がないためやや無理やり感がある。
登場人物が多い点と、三人称小説ではあるが視点がルース→ジュディ&ケン→ハリー&アリスと急にずれる点で、読み手としては状況把握が少し大変だった。

小都市シルブリッジに現れた謎の美女ルース・ケラウェイ。
母の死後シルブリッジルースの区役所でタイプライターとして働きだしたルースは大きな憎悪を胸に抱いていた。

一人の死者と、一人の行方不明者。
過去の不正選挙疑惑に隠し子、それぞれの政治的な思惑。

小さな都市に投げ込まれたルースという小石に、波紋が広がるように疑念が波及していく。
複雑な人間関係の中で疑念が重なり合っていく様子は見事だ。
ジュディ(とケン)が主人公ととらえれば、ルースは非常にジョーカー的な立ち位置で、ジョーカーとしての役割をきっちり果たしている。

露骨なまでに触れられない一人の人物。
ミステリの犯人としては分かりやすすぎるが、ジュディを主人公として、ジュディとの関係性に着目して考えると、こうゆうのもありな感じがする。
ミステリとしては明らかに減点だろうが、サスペンス要素のある人間劇としてみると、なるほど、と思う。

実はミステリを読むのは久々だったのだけど、結構楽しめた。