【読書029】「妊娠カレンダー」

妊娠カレンダー」(小川洋子/文春文庫)

短編が三篇収録されている。

まず表題作の「妊娠カレンダー」。
雰囲気は角田光代さんの「予定日はジミー・ペイジ」に近い。内容的にもなんとなく対になっているイメージの作品。
「予定日はジミー・ペイジ」の視点が妊娠した女性本人であるのに対し、本作は妊婦の妹の視点から、妊娠に伴う姉の感情や体調の揺らぎを描く。
三者視点である分だけ客観的で、場合によっては本人よりもうろたえる周囲の様子が面白い。

二作目「ジミトリイ」。
学生時代を過ごした学生寮。従兄弟の進学と入寮をきっかけに付き合いが復活した学生寮の「先生」との関係。
濃密でミステリアスな短編。
最期のオチですごくしっとりとしたイメージになっている。良作。

三作目「夕暮れの給食室と雨のプール」。
トラウマと妄執。濃度の濃い臭いは実際悪臭だと思う。食事と工業化というアンマッチ。
少し狂った、他人の悪夢を垣間見るような感じの作品。

全体的に短く読みやすいので割とおすすめ。