【読書036】「心を動かすデザインの秘密」

心を動かすデザインの秘密 認知心理学から見る新しいデザイン学」(実務教育出版/荷方邦夫)
 ※「本が好き!」様より献本いただきました。

認知デザイン学の入門書、と紹介される一冊。

今朝、目が覚めたときに一番に目に入ってきたものは何ですか?朝食は何を食べましたか?一番心に残ったニュースは、テレビと新聞のどちらでしたか?どんな交通機関を使いましたか?
その中で、人の作ったものでないものが、どれだけありましたか?(1ページ)
本書は上記のような文章で始まる。他愛無い問いかけだが、なんだかすごく印象的な一文だ。
まさしく私たちは、ありとあらゆる人工物、あるいは人工的に加工された物に囲まれて生きている。
人工的な製造物であるは車や街並み、衣類はもちろん、一見自然に見える川や森も、治水や林業などの目的をもって人の手が加わって作り上げられている。
本書では、車やペンなどの"物"はもちろん、法律や言語、加工品も含む全ての人工物を対象に、認知心理学的立場からのデザインについて語られている。

人間は、理解しやすいもの、対象への理解がスムーズに行われるものに好感を抱く傾向にあるという。
単純でわかりやすいデザインほど、初見での好感度が高い。一方、単純でわかりやすいデザインは、飽きがくる。
飽きのこないデザインは、単純に見えても複雑で、逆に飽きが来やすいデザインは複雑に見えても単純である、ということだろうか。

加えて、複数回接することで、好意は上昇する(単純接触効果)。何度も繰り返して同じ処理を行うことで、処理は次第にスムーズになることが原因と考えられているようだ。
(知覚的流暢性誤帰属説)。

個人的にテトリスや各種トランプゲームなどを考えてみる。こういったゲームは単純そうに見えて、非常に複雑なゲームの一つだろう。
単純そうに見えることで、多くの人間が興味を抱きプレイする。
ルール自体は単純なので、理解がスムーズであり、好ましいと判断されやすい(知覚的流暢性誤帰属説)。
知名度が高いため、折に触れてプレイされるので、そこに、反復プレイされることによる単純接触効果が加わる。

なるほど。このように人気のあるゲームを、認知心理学的に分析すると、確かに理由が見えてくるようだ。

タイトルから、色々なデザインがなぜ人の心を動かすのか、実例を交えた分析本を期待していたんだけど、どちらかというと文献本だった。デザインよりも認知心理学に主眼が置かれているように感じた。
「心を動かすデザインの秘密-認知心理学から見る新しいデザイン学-」というタイトル、タイトルとサブタイトルが逆であるほうがしっくりくるかも。