【読書085】「おろしや国酔夢譚」

おろしや国酔夢譚」(井上靖/文春文庫)

天明2年(西暦1782年)、江戸を目指して伊勢を出向した、船「神昌丸」は台風に遭遇し、大黒屋光太夫をはじめ17名の船員たち。
漂流中に1人、漂着した厳しい寒さのアムチトカ島での7人をはじめ、櫛の歯が抜けていくように仲間を失いながらも、遺された者たちは帰国をめざす。
日本の地を踏むことなく亡くなった者、ロシア正教に帰依して帰化する道を選んだ者、日本を目前に北海道で亡くなった者、そして帰り着いた者。
寿命、極寒、飢え、彼らの命運は、いったいどこで別れたのか。

江戸にもどるまでの10年で、伊勢から、アムチトカ島、カムチャツカ、オホーツク、ヤクーツクを経由しイルクーツクロシア帝国の帝都であるサンクトペテルブルクへ。
サンクトペテルブルクでは女帝エカチェリーナ2世との謁見を許され、ようやく帰国への道が開かれる。
371ページに彼らの足跡をたどる地図が掲載されているが、なんという距離であろう。

伊勢から最初の漂着地であるアムチトカ島に至るまで、実に8か月を漂流して過ごしており、1名の命が失われてはいるのだが、本作は漂流記ではない。
漂流中の様子にはほとんど触れられておらず、光太夫の視点で記録分のよういに書かれた文章で、当時の一般的な日本人の目を通してみた「ロシアの見聞録」だと感じた。

なお、帰国後の二人のについては、やや救いのない結末が描写されている。
海嶺」(著:三浦綾子)にも共通するが、日本への帰国、それのみを志した漂流の果てに立ちはだかるのが日本の国策であった「鎖国」とは、あまりにも悲しい。

(本作が書かれた1968年よりも後の資料の発見から、帰国後の二人が比較的自由な生活であったことが分ったようで、少し安心した。)
マイナス50℃の世界」(著:米原万里)を読んで興味を持った本だけど。
現代でも厳重装備なヤクーツク。当時はどれだけ苦境だったんだろうか。そんな極寒の地にもかかわらず、非常に栄えている描写があって面白い。

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今は10月末なので、目標までは残り2か月で15冊なんだけど。
既読本の読み直しや、重めの本、途中挫折に、他の趣味に割く時間が増えているせいもあってなかなか読み切れていません。うーむ。
一応頑張って読みます。