【読書116】史料が語る近世末期タイ─ラタナコーシン朝前期の行政文書と政治
「史料が語る近世末期タイ─ラタナコーシン朝前期の行政文書と政治」(川口洋史/風響社)
アユタヤの滅亡後、王朝の交代を経て、シャム(タイ)を統治したラタナコーシン朝。アユタヤ復興を目指したと描かれることの多い王朝であるが、遺された行政文書、文書史料から見えてきたのは、通説とは異なる、ラタナコーシン朝の政治の姿だった。
外交上は二重の翻訳を行っていたというくだりが印象に残った。
シャム国王が発した文書を清国は清国の論理で翻訳し、清国王が発した文書をシャムはシャムの外交的立場から翻訳する。
清国にとってシャムは属国であるが、シャムにとって清国は対等なのだ。
翻訳が挟まることで認識の違いが対立せずに両立することが大変興味深い。
内政については特に行政文書の増える三世王から五世王、三名の王の治世と時代背景に言及している。
王は他国の王とのみ文書を交わす、という大前提にたち、どの情報が国王に上申されるかは大臣や上級官僚のさじ加減であった三世王の時代から、上奏文を取り入れ国王と地方官司、直通のシステムを導入し親政をめざした四世王の時代。
通説に惑わされず、史料の内容をストレートに読み進める大切さをうかがい知ることができる。
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電子書籍としていただいたので、そちらのシステムについても言及しておく。
一番はページ送りが致命的に遅い。
残念ながら、読み進めるのにストレスを感じるレベルであった。またこのため、他ページに記載の図表の確認や、前に戻って内容を確認することが非常に億劫である。
一方でブラウザで読むことができ、専用アプリを必要としない点は評価できる。
現状のシステムで読むのは本書の半分程度、20-30ページが限度かなと思う。
今後に期待したい。