【読書139】春狂い

春狂い」(宮木あや子/幻冬舎/ひたちなか市立図書館書蔵)

美しい少女は、その美しさ故に、子供であることを失い、父を失い、家族を失い、居場所を失い、自身を失った。
人より優れた容姿に向けられる好奇の目。子供であるが故に出される手。女であるために救いの手は伸べられない。美貌故に生じる苦難の日々。
本書は少女と少女に関わった人間たちを描いた小話が六話連なった連作集である。

美しい少女の受難、美しい少女と苦境を共にする同じく美しい少年、という設定だけを見ると、桜庭一樹さんの「少女七竈と七人の可愛そうな大人」の七竈と雪風を思い出す。

もっともこちらは一片の救いもない。
つかの間の平穏はことごとく破られ、それでも壊れることなく、慣れることなく、「普通」に受け止め続ける少女。
糸は至るとことで縺れ、最終話を迎えても、固くほどけないままである。
狂気を抱いていたのは果たして誰だったんだろうか。
少女の受難の物語であるはずなのに、誰かの壮大な妄想に取り込まれてしまったような、異常な読後感であった。

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村