(読書記録)「高熱隧道」

高熱隧道」(吉村昭/新潮文庫)

黒部第三発電所建設のため、水路トンネル及び欅平駅〜軌道トンネルの開通を目指す現場を描いた一冊。

資材運搬中の転落死にはじまり、岩盤温度はセ氏150度を超える灼熱地獄、宿舎を襲う大雪崩。無残に死んでゆく人夫たち。
国策の大工事、軍需工業力強化の大義名分の前で、人命は呆気なくグロテスクだ。
それでもトンネルの貫通をめざし工事を推し進める技師。
技師らも自認するほどの、過酷な労働環境。
ダイナマイトの自然発火事故、事故を防ぐため、人夫の命を守るための試行錯誤。

あまりの死者の多さから、県警からは工事中止命令が出され、若い技師の発狂する。
工事中止は決定的かと思われた最中、遺族へ天皇陛下からの御下賜をうけて、さらに工事は続いてゆく。

そして、訪れるトンネルの貫通。
消えたダイナマイト。人夫達の間に流れる不穏な空気。
喜びもつかの間、人夫頭の警告を受けた藤平ら技師たちは、暗いトンネルの中を逃げるように峡谷を去る。

吉村昭さんの、歴史小説ではない小説が割と好きです。歴史小説も読んでみたら面白いのかもしれないけれど、どうしても長編になる傾向にあるので手を出しにくい。