【読書018】「食糧の帝国―食物が決定づけた文明の勃興と崩壊」

食糧の帝国―食物が決定づけた文明の勃興と崩壊」(エヴァンD.G.フレイザー、アンドリュー・リマス、藤井美佐子(訳)/太田出版)

食糧交易網の発達をベースとして栄華を誇る文明「食糧帝国」。
過去から現在に至るまで、多数の食糧帝国が生まれ、繁栄し、そして消えていった。

古くはメソポタミアに栄えたシュメール人たちの国。ローマ帝国、そして現代の各国。
各時代で、食糧増産の原動力となったコミュニティ(キリスト教の修道士たちや大航海時代の冒険家たちなど)があった。

どの時代でも、都市の人口を賄うための食糧生産量を確保するために、大量の水、農薬・肥料、さらには労力、石油を使ってに加えて単一の作物のみをハイペースで生産し続ける。
また、効率を追い求めた結果としてなされた研究はメンデルの法則の発見やGM作物の誕生など様々な成果を生み、科学技術の発達をもたらした。
しかし、一方で、集約型農業の末に疲弊しきった農地にもたらされるのは、収量の大幅な低下から耕作不能地の増加、食料不足に起因する社会不安、そして最後は文明の滅亡という荒廃した末路だ。

本書では、そういった過去の文明の栄枯盛衰の実例を踏まえて、現在のから「持続可能な農業」への転換の必要性を主張する。

本文中に書かれていたけど、狩猟生活を営んでいた時代の週の労働時間20時間に対して農耕生活における週の労働時間が40時間。
現代日本での目安の労働時間が40時間(1日8時間×5日)というのは興味深い。

考古学の研究により、ほぼすべての古代の農耕中心地で、食生活の質が低下したことが証明されている。 (中略)一万年前の先祖の水準を取り戻すには、人類は産業革命を待たねばならなかった。(127ページ) 農耕開始後、単一食糧接種に伴う栄養の偏りや労働時間の長時間化によって、人類は極端に短命化する。 短命化した人類の寿命が、狩猟生活当時の長さに戻るまでには、産業革命を待たねばならなかったというから、狩猟時代の人類は思いのほか長生きだ。 ただし、狩猟生活では人口を増やせない。 自然環境によって、環境が養える人数はほぼ固定だからだ。 これが農耕生活であれば、農地を広げることにより、養える人数を増やすことができる。 人類は狩猟生活から農耕生活へ切り替えた。結果、寿命は短くなったが、人口が増えた。 何世代か重ねると、農耕人口が狩猟人口を上回る。農耕民族がメジャーな時代の到来だ。 無邪気に産めよ増やせよ、繁栄せよと改良を重ねた結果、増加した人口、耕地、収量。 非常によく言われることだが資源は有限である。 集約型、エネルギーをつぎ込んだ農業を続け、土壌や水資源といった環境が疲弊しきった末にあるのは、広大な食糧帝国の滅亡と、ローマ帝国滅亡後のような暗黒の時代なのかもしれない。 しかし、持続可能な農業、循環型の農業、有機農法、はたしてそれで、既に増えてしまった人口を賄いきれるのだろうか。 人類は集約型の農業を行うことで莫大な収量を得ているのも、一面の事実である。 もしも、地球人口が、持続可能な農業により賄える限界をすでに上回っているのだとしたら、持続可能な農業の果てにあるのも、やはり暗黒の時代なのかもしれない。