【読書020】「死と神秘と夢のボーダーランド: 死ぬとき、脳はなにを感じるか」

死と神秘と夢のボーダーランド: 死ぬとき、脳はなにを感じるか」(ケヴィン・ネルソン/インターシフト) ※「本が好き!」様より献本いただきました。

「医学の古い格言に、物事に関する知識の量を量るには、それを主題にした文献の量を見ればよい、とある。膨大なページが割かれているほど、分かっていないことがたくさんあるという意味だ。(76ページ)」

神との遭遇、走馬灯、幽体離脱に三途の川…。
スピリチュアル体験者に共通のイメージと、個別に生じるイメージ。
脳の各部位と体験内容の関連性。

死の直前、極度のストレスや病気/怪我のような損傷/衝撃によって個人が経験するさまざまなスピリチュアル体験を、脳科学の側面から科学的に原因究明しようという一冊。
本書内でも言われているが、スピリチュアル体験自体を否定したり、その体験から何かを得た人々を批判するような内容ではない。
献本いただいたので早速読んでみたのだが、内容的に少々難しく結局読むのに1週間、書評を核のに数日かかってしまった。

右脳と左脳を別々に眠らせて、右脳だけあるいは左脳だけでの受け答えを見る実験や、脳に電極をあて、電気刺激の場所と被験者の意識/感情の動きをみる実験等々…。
凄い面白い。
脳と意識の関係を探る実験では、被験体との意思疎通が必須であるため、人体を用いる実験しかありえないのだけど、本当に人体実験なので、嫌悪感を持つ層も居そうだ。

「自己に不可欠な要素である人格に前頭葉の損傷が深刻な影響を及ぼすことは、古くから知られている。この脳損傷が永久的なものであれば、人格の変化も永久的かつ不可逆的となる。(98ページ)」
引用部分に続いて実際に幾つか例示がされている。
述べられている例は、貞淑から奔放、節約から散財など抑制が効かなくなる方向への変化なのが面白い。
基本的には、本能的なさまざまな衝動を、社会生活を営むために前頭葉で抑制しているということなのだろうか。

さらにフェイネアス・ゲイジの事例として、実際に脳損傷により性格が大きく変質してしまった例が紹介されている。
ロボトミー殺人を思い出した。当時切断の対象とされたのは前頭前野及びその周辺部。wikiには「意志、学習、言語、類推、計画性、衝動の抑制、社会性などヒトをヒトたらしめている高次機能の主座」と記載がある。

本書を読んで私自身が経験したスピリチュアル体験を考えてみた。
といっても金縛りと走馬灯くらいしかない。

眠りに入ろうとすると、金縛りにあう。恐怖感もあり、金縛りから逃れようと無理やり体を動かすと、今度は意識が覚醒してしまう。
それを何度か繰り返した後で、ふと気づいた。
今、自分は眠りに落ちる瞬間が、瞬間じゃなくなっているに違いない。金縛りでも無視していれば眠れるはず。
そこからは金縛りの恐怖を無視して眠りに落ちた記憶がある。
この時の私は、本書でいうレム入眠の途中、ボーダーライン上に居たのだろう。

個人的に本書から得た一番の収穫は、脳研究は私の想定していたよりもずっと進んでいるのだな、ということだろうか。
実際に研究している方にとってはまだまだ分からないことが多いのかもしれないが、脳については不明な部分が非常に多い、ほとんどわかっていないというイメージを持っていたので、予想以上にいろいろなことが書かれていた。

大変興味深く読了したけど、私の勉強不足ゆえに理解しきれていない部分が結構ありそう。
もう少し脳についての知識を得て、再読したい一冊。