【読書181】文明を変えた植物たち ーコロンブスが遺した種子

文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子」(酒井伸雄/NHK出版/ひたちなか市立図書館書蔵)

コロンブス以降、ヨーロッパ世界には新大陸原産の数々の植物がもたらされ、現代文明の礎となった。
その中でも影響が大きかったと思われる6つの植物が、ジャガイモ、天然ゴム、カカオ、トウガラシ、タバコ、トウモロコシである。

本書ではその6つの植物がいかに人間社会に関わり、支えているかを述べる。

◾︎ジャガイモ
栽培作物が属する大きなグループのうちの一つ、ナス科。
日本ではナス科と呼ばれるが、海外ではポテトファミリーと呼ばれるという。ナス、トマト、ジャガイモ、タバコ…。本書にも登場する多数の作物がこのグループに属している。

ポテトファミリー、その単語だけでも、ジャガイモがいかに身近で重要な作物であるか伺える。
食糧増産は人口の増加につながり、国力の増強をもたらす。
地下に食糧となる芋をつけるジャガイモは戦乱や災害にも強い。
冬の飢餓から抜け出したのは人間だけではない。家畜もまた、越冬させることができるようになったのだ。これにより、塩漬け肉の時代は終わり、生鮮肉食という新しい食事のステージがもたらされた。

◾︎天然ゴム
天然ゴムを含む植物は500種以上にものぼるという。
身近なところではたんぽぽである。茎を折るとでてくるあの白い液体には天然ゴムが含まれているそうだ。
たんぽぽの白い液が接着剤になる、という都市伝説があったが、まさか天然ゴムを含むとは。

合成ゴムの生産量が1200万トンに達する現在でも天然ゴムのニーズは衰えない。
現在の天然ゴムの主な用途はタイヤである。
合成ゴムでは一つの機能を強化すると、ほかの機能に不具合が生じる場合が多いという。対して天然ゴムは平均80点。万能のゴムはなのである。
高度1万メートル、気温氷点下60度と、着陸時の摩擦熱双方に耐えうるゴムは天然ゴムしかなく、また薄さ0.03ミリメートル、ピンホールや破損が絶対許されないコンドームの機能を満たせるゴムもまた天然ゴムのみである。

◾︎カカオ
チョコレートがカカオ豆から作られることは知っていても、カカオ豆がどのように作られるかを知っている人はあまりいないのではないだろうか。

果実から果肉を取り出し、放置して果肉の発酵をまつのだそうだ。
この発酵開始と同時にカカオ豆は発芽するのだが、果肉の発酵に伴う酢酸と温度によって発芽したカカオ豆はすぐに枯れてしまう。
この発酵がチョコレートの風味には重要とのことだが、うーん…。
なんだか生き物としての矛盾を感じる話である。

◾︎トウガラシ
植物は食害を防ぐための自衛として、苦味や辛味、毒性を獲得する。その一方で、種子を運搬してもうために赤や黄色、そして甘い実をつける。
トウガラシの場合、その実は赤く、しかしとても辛い。
猿や鹿などの野生動物すらも避けるトウガラシ。日本人の場合、12-20ppm程度でカプサイシンの辛味を感じるという。
はたして、トウガラシは食べてほしいのか、食べられたくないのか。

実は辛味を感じずにトウガラシを喜んで食べる生物がいるという。
それは鳥類である。
トウガラシの辛味は種の部分に多い。噛まずに丸呑みする鳥類であれば、あまり影響なく食べられるのだとか。
トウガラシは鳥類のみに食べられることで、種子を遠方まで運んでいるのである。

◾︎タバコ
ヨーロッパの人口の3/4が死に、致死率は7割を超えたといわれる伝染病、ペスト。
黒死病とも呼ばれるこの病気が、タバコの普及に一役買ったという。
曰く、喫煙すると、ペストの予防になる…。
今では信じがたい迷信であるが、登校前に一服を義務付ける学校まであったというから驚きである。

◾︎トウモロコシ
C4植物であるトウモロコシは単位面積当たりのエネルギー生産量が多く、比較的栽培環境を選ばない作物である。
飼料用や食品加工用として肉食文化を支える作物である。
原種が不明という珍しい作物であるらしい。